1日目、3月13日
「冬の北海道は最低でも前日入りしろ」
この言葉を、私はやけに真面目に守っている。
北海道に“着くこと”が、今回の遠征の最初のミッションだった。
この教訓を聞いたのは大学受験の時。高3の担任が北大卒で、「前々日から移動した」というエピソードを語っていたのが妙に印象に残っている。さらに、実際に北大を受けて受かった友人も前々日入りしていた。
となれば結論はひとつだ。
「最低でも前日入り」
これはもう、私と母の間では議論の余地がない共通認識になっていた。
というわけで、3月13日の夜の飛行機を押さえた。
もし天候が荒れたら。
——その場合のシミュレーションも抜かりない。
新幹線で新函館北斗まで行くか、八戸まで出てフェリーか、新青森で一泊して翌日鉄道か。
こういうルートを考えるのはまったく苦ではない。むしろ楽しい。
ただし、それを“実行する側”に回った瞬間、話は別である。
そんな心配をよそに、当日は拍子抜けするほど穏やかだった。天候の乱れもなく、機体トラブルもなく、飛行機は定刻通りに飛ぶ。
ただ、気流が少し荒れていたらしく、機内はちょいちょい揺れた。その影響なのか、ドリンクサービスは冷たいものだけ。ちょっとした“冬の北海道感”である。
ぱっと見で「全員嵐に行きます!」という感じではないが、なんとなく雰囲気でわかる人もいる。
そして着陸後、客室乗務員さんのアナウンス。
「嵐のコンサート、楽しんできてください」
——今日だけで、この言葉は何回空に流れたんだろう。
あと数日続くとしたら、それはもう祭りだ。
母は20数年ぶりの飛行機だったらしく、着陸の瞬間に「わ!」と声を上げた。確かに、少しドスンとした着地だった。気持ちはわかる。反応が素直すぎる。
嵐ファンのキャリーケースは、だいたいラゲッジタグで識別できる。だからこそ逆に、間違えたら困る。
念のためステッカーを貼っておいたら、これが見事に機能した。
無事に荷物を回収し、JRへ。
ホテルは札幌駅周辺ではないので、さらに電車に揺られる。
外に出た瞬間、空気が刺さる。寒い。思わず肩がすくむ。
——でも、まあ許容範囲。
風呂に入って、明日の準備をして、布団に入る。
どうしてコンサート前夜って、毎回しっかり寝ようとして失敗するのだろう。
気づけば、時計は1時を回っていた。
2日目、3月14日
ライブ当日。
6時に起きて、準備して出発。
朝ごはんは札幌の場外市場へ向かった。
事前に調べていた店がよさそうだったのと、まだ混んでいなかったのでそのまま入る。
——結果、大正解だった。
海鮮丼でサーモンってそこまで意識して食べたことはなかったのだが、これが驚くほど美味しい。ラーメンも気になる。
最寄り駅から少し歩く距離も、結果的にはちょうどよかった。食前にも食後にもいい運動になる。
店を出る頃には、ちらほらと“同類”の姿が増えてきていた。
そのまま札幌駅へ移動し、ミッション消化タイムに入る。
・お土産の事前調査
・大丸で昼ごはん確保
・六花亭本店でアイスサンド
・丸善ジュンク堂で写真展
——結果、全部終わった。
というか、予定より巻いている。
ここまでは、完璧すぎるくらい順調だった。
大丸に行くと、開店待ちの列。
さらに地下は列、列、列。
よく見たらホワイトデーイベントだった。
「大丸の入店列はどこですか?」
人生でこのセリフを言う日が来るとは思わなかった。
昼ごはんを確保し、勢いでAIBAの生キャラメルも購入。
この時点で、すでに荷物は増えている。なぜだ。
六花亭本店はさらにすごかった。1階のレジ列がフロアを一周している。
——無理だ。
諦めて2階へ行くと、テイクアウトも対応していた。結果オーライ。
アイスサンドをかじる。
うまい。
でも溶ける。
うまい。
冷静に考えて、冬に外で食べるものではない。
それでも、母が「美味しい」と素直に喜んでいたので、それだけで来た価値があった。
その後、丸善ジュンク堂へ。
写真集もグッズも買い、なぜかSuicaのペンギングッズも買う。
「これから本番なのに」
そう言いながら荷物を増やすのは、もはや様式美である。
気づけばまた予定より巻いている。……——もうやることがない。
というわけで、ドームへ向かうことにした。
福住駅に着いた時点で、まだ12時前。
余裕がありすぎる。
人は多いが、この時間ならまだ流れはスムーズだった。
ただ、途中の飲食店はすでに長蛇の列。祭りはもう始まっている。
ドーム到着。
写真スポットは混んでいるが、そこまで興味はない。
遠くから撮ればいい。
母に荷物を預け、人混みに突入して撮って帰る、を繰り返す。
効率重視である。
一通り終えたところで休憩。おにぎりを食べる。
そして考える。
——時間をどう潰すか。
結論:トイレに並ぶ。
時間も潰れるし、風も防げる。合理的だ。
思ったより早く進んだあとは、グッズ売り場周辺で待機。
人が集まると風よけになる、という学びも得た。
15時過ぎに案内開始。
気づけば予定より早く入場し、15:29には買い物終了。
——巻きすぎである。
そのまま入場待機列へ向かうが、最後尾が見えない。
歩いているうちに、さっきまで閉じていたエリアが開き、前方へ。
ここでも妙に運がいい。
16時開場。
顔認証、チケット、荷物検査。
あっさり終わる。
少し拍子抜けするくらいに。
席に着く頃には17時を回っていた。
準備を整えて、18時を待つ。
21時過ぎ、公演終了。
今日はアンコールの空気ではなかった。
あの流れは、あれでよかったと思う。
規制退場は最初のグループ。
ここでもスムーズ。
——今日の運、だいぶ使っている気がする。
外に出て、足元を照らそうとペンライトをつける。
その瞬間、ふっと消えた。
「制御されてる!?」
まさかこんな場所で。
「潤に消された!」と言いながら笑う。
シャトルバスもスムーズ、地下鉄も空いている。
最後まで流れは良かった。
ホテルに戻ったのは深夜。
そしてやっぱり、この日も1時過ぎに寝ることになった。
3日目、3月15日
この日は帰るだけ。
——ただし、鉄道で。
札幌駅でお土産を回収。
昨日の“目星”は外れたが、別の店で無事確保。
さらに偶然出会ったグッズも購入。
気づけばまた荷物が増えている。
もう驚かない。
約8時間の鉄道旅に備えて、食料を買い込む。
駅弁、サンドイッチ、自販機グルメ。
列に並んだサンドイッチは、あとで調べたら“翔さん案件”だった。
そりゃ彼が食べたというサンドウィッチが売り切れていたのも納得。
特急は始発から満席。
まさかのデッキ立ちも発生していた。
そしてやっぱり、嵐グッズの人がちらほらいる。
揺れと暖かさに負けて、気づけば寝ていた。
起きたらちょうど昼。
駅弁がうまい。
その後はゲームをして時間を潰すが、よりによってエンドロールを見る。
——今じゃない。
新函館北斗で乗り換え。
人の流れがすごい。ほぼ全員、新幹線へ。
ここで気づく。
特急と新幹線、同じ高さで乗り換えられる。
地味に感動する。
青函トンネルは思ったより長かった。そして歴史も長い。
仙台で最後の乗り換え。
ホーム向かいに次の電車。
——こういう時だけ運がいい。
そして、地元駅。
嵐バッグを持っている人は、もういなかった。
eチケットの仕様で改札に引っかかり、最後に少しだけ現実に引き戻される。
それでも。
体は疲れているのに、頭の中だけがずっと騒がしい。
そんな帰り道だった。
当日編、了



